Home > ブログ > 11月06日のブログ

ブログ

2009.11.06

ミラグロはハラグロ!?

ナスカの地上絵を見たあとわたしたちはナスカ郊外にある飛行場からナスカの中心部に戻った。

ナスカの地上絵を見たという興奮から、モトキとずっと地上絵の感想を話しながら歩いた。

091106_02_01

「そういえば、くもりの方が見やすいってミラグロは言ってたけど、けっこう見にくくなかった?」とわたしが言うと「そうやなぁ。晴れてる方が影のコントラストがはっきりして見やすいような気がするけどなぁ。」とモトキ。話していると、ナスカの地上絵セスナツアーにおいて、たった1つの「正式な直営店」といわれる旅行代理店「NCトラベル」の看板が偶然見えてきたので、晴れとくもり、どっちの方がナスカの地上絵が見やすいか直営店で尋ねてみようということになり、わたしたちはNCトラベルに入った。


すると、NCトラベルの店員さんは「もちろん晴れのときがベストだよ。」と即答した。「え!くもりのときがベストじゃないの?」と聞くと「晴れがベスト。これはナスカの常識だよ。誰かに聞いたのかい?」とのこと。モトキの方を見ると、表情が曇っている。「ちなみに、セスナのツアーは一人いくらですか?」とモトキがゆっくり尋ねると、店員のおにいちゃんはモトキに合わせてゆっくりと答えてくれた。「一人45ドルだよ。」


え?!


どういうこと?????


予想していた金額よりもあまりに安すぎて頭が真っ白になる。

すると「やっぱり。完全にやられてもうたな。」モトキは頭をくしゃくしゃかきながらつぶやいた。

じつは昨日、わたしたちはミラグロに二人分で180ドル支払っていた。ということはミラグロのセスナツアーは「一人90ドル」していたことになる。つまり店員さんの言った「一人45ドル」の倍の値段をわたしたちはミラグロに支払っていたのだ。


でもでもでもでも。


ちょっと待って?


ミラグロは「うちのセスナツアーは格安だから」と昨日言っていた。エクボのかわいいまんまるの笑顔で。さっきもセスナに乗るまで一緒にいたミラグロ。


でも、そういえば・・・今日のミラグロは昨日とは雰囲気が少しちがっていた。

昨日バスターミナルで話しかけられて、そのままホテルとツアーを申し込んだときのミラグロは満面の笑顔でわたしたちに上機嫌で話しかけてきてくれたけど、今日は一度もそういうことはなかった。クジャクを見にいくときもミラグロは少しめんどくさそうにしていて、わたしやモトキが話しかけてもあからさまに返事をしてくれないときが何度もあった。モトキは「なんやあいつ」と言っていたけど、でもそれはミラグロが疲れているからで、それかわたしたちの英語の発音がわかりにくかったとかで、それかきっと忙しくて頭がいっぱいになってるとかで、それか体調が悪いとかで、そんないろいろな理由で今日はただあまり話したくない感じなんだろうなとわたしは思っていた。でも・・・ミラグロへの手数料だと考えても、ペルーは1.5リットルの水が30円で買える国だ。手数料が45ドル(4500円)するというのがどれだけ異常なことか、計算の弱いわたしでもさすがに理解できた。


わたしたちはセスナツアー代金として二人で180ドル客引きに支払ったことを店員のおにいちゃんに伝え、客引きの手数料はペルーではこんなに高い場合もあるのか聞いてみた。すると「手数料が45ドルだって?!信じられない!そんなにひどい手数料は今まで一度も聞いたことがないよ!普通上乗せするとしても5ドルぐらいで、ひどい場合でも10ドルほど。45ドルも上乗せするとは!なんてことだ!あぁ神様!信じられない!!」と両手を振り上げて店員のおにいちゃんは外国人特有のオーバーリアクションで興奮し始めた。そんなおにいちゃんを見て、わたしは改めてスーッと血の気が引いていくのを感じた。


しばらくして興奮が少しおさまったおにいちゃんは「もしよければどこのツーリストを君たちが使ったのか教えてほしい。」と聞いてきた。ミラグロが所属するツーリスト名を伝えると「あそこか!あそこはタチが悪いからな。でもここまでひどいやり方をしているとはまったく知らなかったよ。」とおにいちゃんは吐き捨てるように言った。


そして「どこでミラグロと知り合ったのかい?」と聞くので、バスターミナルで声を掛けられたというと「いいかい。よく覚えておきなさい。ペルーでは、正規の代理店以外の場所で決してモノを買ってはいけないよ。客引きがたとえ笑顔で感じが良い人物に見えても、無邪気そうな子どもでも、中にはタチの悪い客引きがいるから、これからは自分で自分を守るように常に心がけなさい。年齢や見かけだけでその人物が安全かどうかを判断してはいけないよ。君たちは日本人かい?とくに日本人が一番狙われやすいんだ。日本人はすぐに人を信じるからね。しかもバスターミナルは1番客引きが出るところだから、これからは本当に気を付けて。」と店員さんは真剣なまなざしでペルーの客引き事情を教えてくれた。おにいちゃんのペルーを旅する旅人の心得講座は、小1時間におよんだ。


ショックだった。


ミラグロのことを信頼していたし、えくぼのかわいい明るいミラグロが好きで、まるでナスカに友達ができたようにわたしは思っていた。ミラグロがそんなことをするなんて今でもまだ信じられない。ミラグロはとってもやさしい気がきく良い子だ。でも、NCトラベルの店員のおにいちゃんがウソをついているとも考えられない。こんなウソをついてもおにいちゃんになんのメリットもないからだ。


わたしたちはおにいちゃんにお礼を言って店をでたあと、無言でしばらく歩いていた。さっきまでのナスカの地上絵を見た感動は、すっかりどこかへ消えてしまっていた。


そういえば、ミラグロとバスターミナルで初めて会ったとき、わたしたちが日本人なのか何度もミラグロは確認してきていた。日本人が大好きといって満面の笑顔を見せたミラグロ。ペルーを訪れるのは初めてか、ナスカは初めてか、ホテルに着くまでわたしにいろいろと質問してきたミラグロ。セスナツアーはウチは一番安い価格で提供しているから何も心配ないと言って笑ったミラグロ。地上絵はくもりが一番見やすいからあなたたちは本当にラッキーだと言ってエクボを見せたミラグロ。


大好きなミラグロの笑顔が、不気味な笑顔に変わって、頭の中をぐるぐる回りはじめた。ミラグロがエクボを見せて笑いかけていたのは、わたしたちではなく、日本人観光客の持つお金に対して笑いかけていたのかな。そんなネガティブな感情が、ぶわぁ~っと心の中に広がっていった。そしてドーンっと心が重くなった。どうしてすぐにそのことをわからなかったのだろう。わたしはなぜか、悪徳な客引きのほとんどが男の人で、しかも人相は悪いに決まっていると今の今まで思いこんでいた。笑顔でにこにこしているほがらかな人はわたしを騙したりしない。とくにかわいらしい無垢な感じの女の子や子どもは決して人を騙さないと、見た目や年齢や性別といった条件で自分が人を判断していたことに気づいた。わたしってなんてアホなんだろう。


でも待てよ。
観光客がよくボラれるというセスナツアーの値段はわたしたちも事前にしっかりと調べていた。よく見るHPには確か95ドルと書いてあったはずだ。出発前から何度もそのHPを見ていたし、リマのホテルでもHPで値段を確認したから間違いない。もしかして、NCトラベルのおにいちゃんが値段を感違いしてるのでは?という淡い期待が頭に浮かんだ。モトキにこのことを伝えると「確かに95ドルって書いてたよな。」とモトキも不思議がっている。「でもNCトラベルのおにいちゃんが正しいと思うで。」と言うモトキの手を引っ張って、わたしは走ってホテルに戻ってパソコンを開き、いつも見ていたHPを確認してみた。


すると、今まで気づかなかったけど、わたしたちが見ていたページはすべて二人分の合計金額で書かれていた。すっかり一人95ドルと思いこんでいたけど、「二人で」95ドルだったのだ。勘違いしていたのはNCトラベルのおにいちゃんではなく、やっぱりわたしたちの方だった。


く~!!
悔しい~!!!
確認ミスだ。
完全にわたしたちがHPの数字を見間違っていた。
事前に金額を知っていれば、割高すぎるミラグロのセスナツアーを申し込むことは絶対になかった。
「ここはペルーで、こういう商売が当たり前の国なんだから、確認ミスした自分が悪いんだ。自業自得だ。勉強代だと思えば良いじゃないか。」という大人の自分と、「ミラグロめ~!くっそ~!ニコニコして人を騙すなんて最低やん!」という子どものような思いが交錯して、わたしはベッドに倒れ込んで顔を布団に押しつけながら足をバタバタさせて「くそ~!」をしばらく連発した。


そして、ふと気が付いた。

ホテルもミラグロに紹介してもらうカタチでチェックインしたので、ホテル代もミラグロへの手数料が含まれているのでは?と。


さっそくホテルの受付へ確認に行くと、昨日ミラグロとスペイン語で会話していたスタッフと同じ人が座っていた。

昨日のミラグロとのやり取りからすると、この受付のおねえさんは英語が話せないんだろうなと思いながら英語で「ホテルの料金を聞きたいんですが。」と聞くと「何号室にお泊りですか?お名前は?」と流ちょうな英語で返してきた。「英語話せるんですか?」とびっくりして聞くと「もちろん。話せますよ。」と涼しい顔で答えるおねえさん。「どうして昨日わたしが客引きのミラグロと来たときはスペイン語しか話さなかったの?」と聞くと「あなたは一度もわたしに話しかけてこなかったじゃない。」と冷静につっこまれた。


もしやミラグロとこのおねえさんはグルなのか?という思いが頭をかけめぐる。


「ミラグロはこのホテルのスタッフなの?それかミラグロと一緒にチェックインしたら、ミラグロに紹介料をホテルが支払うシステムなの?」と聞くと「ミラグロはこのホテルとは一切関係ないわ。ホテルはもちろん払いません。あなたが払うのよ。」と呆れた顔でおねえさん。


げ~!!!なんじゃそら!

「でも、ホテルの中でホテルと関係のない客引きにお客さんが引っ掛かりそうになっていたら、ホテルのスタッフがお客さんを守るべきじゃないの?」と言うと「あなた、ペルーは初めてね?」と鋭い目でおねえさんは聞いてきた。


「そうですけど。」と答えると、おねえさんはため息をつき、子どもを見るようなやさしい目になって話し始めた。
「いい?よく覚えておきなさい。ペルーでは、ホテルの中にホテルとは関係のない客引きが自由に出入りできるの。ミラグロのようにホテルの門のカギまで持っている客引きもたくさんいるわ。これはうちのような中級ホテルだけでなく、5つ星ホテルも同じよ。ホテルの中でツアーなどについて提案してくる人がいても、その人がホテルの従業員とは限らないの。制服を着ていてもよ。部屋にノックしてきてツアーを提案する客引きもいるの。でも、ホテルで何を契約しても、それは自己責任。ペルーではホテルは責任は取らないわ。だから、自分で自分の身をしっかり守ること。ここは、日本とは違うのよ。」


おねえさんに返す言葉はなかった。

日本だったら、ホテル内で起こった事象に対してはホテルが責任を持ってくれそうな気がするけど、それってもしかして世界的に見て珍しいことなのかな。日本では個人が被害にあった場合、その場所を管轄している国や市町村や企業が責任を求められることがけっこうある。被害にあった個人が悪い、自己責任だと言われることは、日本では少ないような気がする。日本にいるときと同じようにホテルの権威に甘えようとした自分をおねえさんに見抜かれて、わたしはなんだか恥ずかしくなった。


「でも、ホテル代金にどれぐらい上乗せするか、おねえさんは昨日ミラグロと交渉したんでしょ?」とおそるおそる聞くと「ミラグロはだいぶ大きく手数料を取りたがったけど、できる限り小さくしておきました。わたしにできるのはそれぐらいだから。」とおねえさんは肩をすくめた。受付でおねえさんとミラグロが昨日長い間何やら話していたのはそれだったんだ。自分のできる範囲でおねえさんはわたしたちを守ってくれていたのだ。


ミラグロにセスナツアーで倍近くの金額を支払った旨をおねえさんに話すと、おねえさんも金額の大きさに驚いていた。警察に被害届を出したら、警察はミラグロのツーリストに注意してくれるのかなとおねえさんに聞くと、ペルーの警察は腐ってるから時間の無駄よとおねえさんはため息まじりに言い、これからは自分で自分を守りなさいともう一度諭された。

 

部屋に戻ってわたしがしょんぼりとベッドに座っていると
「今からミラグロのことをハラグロと呼ぶぞ!」と突然モトキが大声で言いだした。

?????

こんなときによくそんな冗談が言えるなと思いながらモトキを見ると、ミラグロからもらった名刺を握りしめてパソコンを開き始めた。


「まずミラグロをこのホテルにこさす。」とモトキ。「なんせ本人と話してみよ。そして払いすぎた分を少しでも返してもらおう。オレらが日本で働いて必死に貯めた貴重な旅行資金やからな。1円たりとも無駄にしたくないやんけ。」と言いだした。「そんなことミラグロに言って、はいどうぞって返してくれる訳ないやん。」と言うわたしに「なんでもあきらめたら終わりや。あきらめたらあかん。マイアミの空港でも、自分の都合で飛行機に乗り遅れたのに交渉したらタダで日にち変えてくれたやろ。こいつらマニュアルとかない分、個人の判断で動きよるから日本より融通きくはずや。」と妙に説得力のあることを言ってきた。


ミラグロにスカイプで電話すると、意外にもミラグロは「OK!じゃ今日の17時にホテルに行くね。」と軽く言ってきた!信じられなかった。NCトラベルに確認したらミラグロにツアー代払い過ぎてるってわかったから返してほしいと電話で言うわたしたちに、言い訳をするでもなく、声を荒立てるでもなく、このホテルに来る約束をするなんて。やっぱりミラグロは良い子なんかな?「あのガキも少しは悪いことしたと思っとるんやで。」とモトキ。


ミラグロが来たらなんて言おう。とモトキと話し込んでいるとあっという間に17時になった。

ミラグロはまだ来ない。


まぁ南米時間で動いてるだろうし、遅刻は当たり前かなと思って気長に待つことにした。

18時が過ぎ、19時になっても現れない。
スカイプで何度会社に電話してもつながらない。ミラグロの携帯にも電話してみたけど、やっぱりつながらない。ミラグロが頻繁に携帯を確認することをわたしたちは知っていた。昨日わたしたちとツアーの申込みについて話している間も何度も携帯にメールや電話が入り、そのたびにミラグロは携帯に出ていたからだ。いまどきの若者らしく、頻繁に携帯を見る癖もある。だから、携帯にはいずれ出るはずだとわたしたちは思っていた。


夕食を食べにいきたいけど、その間にミラグロが来たらと思うとわたしたちは夕食にも出られず、ミラグロの携帯に何度か電話しながら20時、21時と時間は刻々と過ぎて行った。今日は朝ごはんから何も食べていないからお腹が空いて仕方がない。さっき話したホテルのおねえさんにもミラグロが来たら部屋に電話をくれるように頼んでいるし、ミラグロに部屋の番号も伝えているので、「ミラグロ待ち」の体制は万全だ。


22時が過ぎ。23時が過ぎた。
お風呂にも入らずにわたしたちはひたすらミラグロを待ち続けた。意地になって待ち続けた。携帯への電話も何度かしてみたけど、相変わらず通じない。そして24時が過ぎたとき、モトキがついに「あいつら、ええ根性しとるやんけ。」と怒り出した。「明日の朝一番にバスターミナルに行って正規の値段以外は全額返してもらう!オレは英語流暢に話されへんけど、その代わりに関西弁でどやしたんねん。日本人が全員泣き寝入りすると思ったら大間違いやいうとこ見せなあかん。」お腹が空いた苛立ちも手伝って、いつもは怒らないモトキが見たこともないぐらい興奮していた。興奮している人がそばにいると、なぜか冷静になれるもので、モトキが怒ってくれているのでわたしはあまり怒りは感じなくなっていた。

わたしたちは明朝のミラグロとの戦に備えていくつか作戦をたてた。


まず、役割を分けることにした。

わたしの方が英語を話せるので、わたしが話の分かる「やさしい刑事」役。
モトキがとにかくキレる「コワイ刑事」役に徹することにした。


とりあえず、わたしたちの確認不足だったということもあるので、悔しいけど二人で10ドルの手数料はツアーの正規料金に上乗せしてミラグロに支払おうということになった。ミラグロも生活があるだろうし、わたしたちにとっては痛い勉強代だけど、一人5ドルの手数料を45ドルのツアー代金に上乗せし、一人50ドルをツアー代金とした。つまり二人でツアー代金は100ドル。現状では180ドル支払っているので、最終的に落とし所として残りの80ドルをミラグロから返してもらうことに決めた。


明日の決戦がどうなるか。


乞うご期待。

ページトップへ戻る