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2009.11.07

ミラグロとバスターミナルで対決!

今日はリマに戻る日だ。
そして、ミラグロとの決戦の日。

客引きミラグロに支払ったナスカの地上絵ツアーの多すぎる手数料(80ドル)を少しでも返してもらえれば……との思いで今日ミラグロと交渉することにしたわたしたちは、朝起きてすぐに荷物をまとめ、チェックアウトを済ませた。荷物はホテルの受付で預かってもらい、ミラグロに会うためバスターミナルへ向かって歩いた。

 

ペルーは日本に比べるとかなり物価の低い国だ。

あるサイトによると、ペルーの年間平均所得は4.500ドル。

 

貧富の差が激しいので農村部に住む農家の世帯だと現金収入はないに等しいだろうし、そういう意味では一概には言えないけど、わたしたち二人からの手数料と同額をほかの観光客からもミラグロが受け取っていたとしたら、ミラグロはかなり裕福に生活しているはずだ。観光客1組あたり80ドルの手数料とすると、ミラグロは1日に何組も相手にしているので、1日の収入が日本人の平均日給を軽く上回るから……。

と、そんなことを計算している自分がなんだか小さくて悲しい。
うじうじ考えるのはやめよう。今からミラグロと決戦だ。


バスターミナルに着くと、ミラグロがいた。

まだバスが来る時間じゃないらしく、バスターミナルは閑散としている。

ミラグロはしゃがみ込んで、赤いスマフォをさわっていた。

 

わたしたちが横に立っていてもまったく気づかないようだ。

・・・なんて声をかけよう。

とりあえず「ハロー!」と言ってみた。

ミラグロはメールをうつのに必死でまだ気づかない。

 

わたしはミラグロの真横にしゃがみ込んで、 ミラグロの耳に口を近づけて大声で叫んだ。

「ハロー!!」

「ハーイ!」と笑顔で振り返ったミラグロの笑顔は、わたしの顔を見た瞬間に凍りついた。

 

十分な「間」を取ってから、ゆっくりした口調で尋ねてみた。

「昨日は夜の0時までずーっと待ってたんだけど、どうして来なかったの?」

 

するとミラグロは今までにない早口で「あなたたちから受け取ったお金を持っているのは別の子だから、その子が行くはずだったんだけど来なかった?おかしいな。ちゃんと言ったんだよ。あなたちのホテルに行くように。今電話してみるからちょっと待って。」とまくしたて、わたしたちから少し離れたところまで行ってから電話をはじめた。

 

電話を切ったミラグロは、ディズニー映画にでてくる悪い魔法使いがウソをつくときのように眉を寄せて首をかしげ、肩をすくめて「彼女、もうリマに向かったみたいなの。残念だわ。」とため息まじりに言った。

「どういう意味?」と聞くと、

「彼女、そういえば今日は仕事でリマに行く日だって言ってたわ。一週間後にナスカには帰ってくるけど、あなたたちはいつナスカを去るの?彼女が帰ってきたら、返せるんだけど。」といつもの調子が戻ってきたようにミラグロは人なつっこい顔で元気に話し始めた。

 

すると、今までのやり取りを聞いていたモトキが突然、ミラグロの顔に自分の顔を近づけて話し始めた。

 

「おい。あほ言うのもたいがいにせえよ。誰が金持ってるかなんかこっちは知らん。今日お前にこうやって会いに来たのは、手数料を返してほしいからきただけや。誰に払ってもらってもこっちはかまわへんねん。彼女かなんかしらんけど、そいつがいないんならお前が返せばすむ話しやろ。」

 

もちろん、関西弁でモトキは言った。
英語が苦手なので。
しかも、なぜかミナミの帝王の主人公のような口調で。
そして今気づいたけど、モトキはサングラスを掛けていた。
モトキの草食系動物のような目では、怒っても知れていると自分で考えたのだろう。

 

「彼、何て言ったの?」とミナミの帝王を知らないミラグロはわたしに聞いてきた。

昨日まではミラグロにニコニコ笑顔しか見せていなかったモトキが、突然ミナミの帝王の登場人物のようになったのだから、ミラグロも一応ただことじゃない気配は感じているようだった。英語でモトキの言ったことを訳して伝える。

 

すると「本当に残念だけど、彼女がお金を管理しているの。お金はわたしの担当じゃないから、わたしはあなたたちにお金を返すことはできないよ。もうあなたたちはあきらめるしかないの。言ってる意味、わかる?英語、わかる?」とモトキの顔を笑顔で見上げながらミラグロは言った。

 

モトキは一応ヒヤリングはできるようになってきているので、この一言がモトキの神経を逆なでしたようだった。「おまえこそ、英語わかっとるんか?オレはさっきから手数料で取った分を返せって言うとんねん。おまえの事情はどうでもいい。さっさと返せ!」

 

もちろん、関西弁でモトキは言った。
英語が苦手なので。
しかも、最後の「さっさと返せ!」は道行く人が振り返るぐらいの大声で。

すると意外にもミラグロは動揺し始めた。

 

『旅の途中で、どうしても怒る必要があるときには、英語ではなく、故郷の言葉で怒りましょう。効き目があります。』とガイドブックに書いてあったけど、どうやら本当らしい。

 

ミラグロはモトキがなんて言ってるのか小声でわたしに聞いてきた。

すると「だから手数料返せって言っとんねん!」とまた大声で言うモトキ。するとミラグロも大声で「英語も話せないくせに、何言ってるの!返してほしかったら英語で話せ!あなたなんかに絶対にお金は返さないから!日本人はお金いっぱい持ってるのに、少しぐらいボって何が悪いのよ!」と言いだした。それにモトキがまた関西弁で「日本人は楽して金持ってるんやない!みんな一生懸命働いて貯金しとるんや!オレも一生懸命働いて貯めた金でペルーに来とるんや!そんなお金ををボって当たり前やとよう言えるな!」と言い、ミラグロが「彼何を言ってるの?」と言い、わたしが訳す、というやり取りをしばらく繰り返した。モトキが演技で大声を出してるのをわたしも知っているだけに、わたしはこのやり取りに疲れてきていた。

 

そして、とりあえず昨日電話で話したことをもう一度整理してミラグロに話してみた。

 

NCトラベルで正規料金とミラグロのツアー料金を比較して、手数料を支払い過ぎていると昨日気づいたこと。そして手数料を返してほしいと昨日ミラグロに電話してから、昨日は夕ごはんを食べずに夜中までずっとミラグが来るのを信じて待っていたこと。何度もミラグロの携帯に電話したけど通じなかったこと。それをモトキが怒っていること。そして、ここからは脚色だけど、モトキは普段怒らない温和な人で、こんなに怒ったモトキをわたしは今まで一度も見たことがないから、わたしは怖くて彼を止めることはできないということ。こんなに怒った彼は知らないから、何をするかわからないということを伝えてみた。

 

すると、ミラグロは自分の手に負えないと思ったのか、ボスに来てもらうと言い、ボスに電話するとすぐにボスらしいぽっちゃりしたおっちゃんと、これまたぽっちゃりしたおばちゃんがやってきた。

 

そして、ミラグロがボスのおっちゃんに何やら深刻そうにスペイン語で説明している。

 

するとおっちゃんは英語で「わたしたちもビジネスでやっているから、いちいち手数料を返すことはできない。君たちも一度支払ったんだから、君たちも悪い。今回は良い勉強になったと思って、あきらめろ。」と言ってきた。

「なんでやねん!返せっていうてんのがわからんのんか?何聞いてるねん。お前らなんぼボッとるかわかって言うとるんやろな?」とモトキがおっちゃんに関西弁で詰め寄ると、おっちゃんもスペイン語で何やら言い、お互いの胸をしばらく小突きあったあげく、モトキとおっちゃんはお互いの胸ぐらを持ちあげて、関西弁VSスペイン語でケンカしそうになっている。まぁまぁまぁと急いでわたしとおばちゃんが中に入ると、お互いの胸ぐらを離したモトキとおっちゃんはふぅふぅ言いながらまだにらみ合っていた。

 

すると、おっちゃんはスペイン語でミラグロに何やら聞きはじめた。
ミラグロはひたすら首をふっている。
またおっちゃんがミラグロに聞く。
ミラグロは首をふる。
何かもめているようだ。

 

おっちゃんは唐突に「君らは二人でいくらミラグロに支払ったんだ?」とわたしたちに英語で聞いてきた。

 

「180ドルです。」とわたしが言うと、おっちゃんは「180ドル!」と少し驚いているようだった。そしてミラグロにスペイン語で何やら諭しはじめた。ミラグロはばつが悪そうにうなずいている。

 

するとミラグロは突然自分の財布をだし、20ドルをわたしに放り投げてきた。

 

え!?返してくれるの?と思って少し感動していると「お前、なんぼボったかわかっとるんか?ぜんぜん足りんわい!」とモトキ。「彼、何を言ってるの?」と聞くミラグロに「ぜんぜん足りないって言ってるよ。」と言うと、また20ドルをわたしに投げてきた。

 

すると、今度はおばちゃんがこんなに返すことないと言わんばかりにわたしの手から20ドルを奪い取って、おばちゃんの財布にしまいはじめた。そしておっちゃんに何やらおばちゃんが怒っている。ハポネス(日本人)、ハポネス(日本人)とおばちゃんが言っているので、おそらくわたしたちが日本人なんだから的な話をしているらしい。

 

「これで十分だろう。」と帰りかけるおっちゃんに「ぜんぜん足りひん!あと60ドルや!」とモトキは食い下がった。するとおばちゃんがモトキに何やら怒鳴り始めたけど、スペイン語だからまったく何を言ってるかわからない。かろうじでハポネス(日本人)という言葉だけわかる。

 

そしてまたモトキのミナミの帝王的なせりふがはじまり、モトキVSおっちゃんとおばちゃんの小競り合いがはじまった。しばらくしておっちゃんとおばちゃんにも「こんなに怒ってる彼はみたことない、わたしは彼を止められない、全額返した方がベターだ」と何度も伝えると、20ドルずつミラグロは舌打ちしながらわたしに投げてきて、10分後にはついにわたしたちの設定した落とし所の金額80ドルに到達した。

 

 

え!?返してくれたやん!

すごい!

信じられない!

 

 

するとモトキが「日本人も全員大人しい訳じゃない。日本人から金ボったら、また怒鳴られるぞってミラグロに伝えて。」と言うのでそう伝えると、ミラグロは先生に怒られている中学生の不良のような顔で「フンッ!!」と口をいがめて笑っていた。そしておっちゃんとおばちゃんと一緒にどこかへ去っていった。

 

それにしても、こんなことってあるんやなぁ。
としみじみ思った。
絶対に返してもらえないと思ってたのに。
あきらめないで交渉するって大切やなぁと実感した。

 

わたしは今のミラグロたちとのやり取りの中で何度も心が折れそうなったのに、一度も引き下がろうとしなかったモトキは本当にあっぱれだ。何度も「もうやめよう。」と腰ぬけなことを言うわたしに「あかん!最後まであきらめるな!」と繰り返したモトキを素直に尊敬した。

 

わたしにはない強さがモトキにはあると改めてわかった。


とりあえず、リマ行きのバスに乗り込み、わたしたちはやっと一息ついた。

昨日の夜から何も食べていないから、この機内食は涙が出るほどおいしく感じた。


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おやつもでた。


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じつはミラグロたちとのやり取りの間中、イイかっこしいのわたしはバスターミナルに日本人がいないことを心から祈っていた。モトキの怒鳴る声を聞いて、関西人ってほんとに怖いよね~などと言われかねないからだ。ただでさえ、旅先でどなり散らしてる日本人を見掛けたら100%関西人だというのは、有名な「旅人あるある」なのだ。だいたい旅先でトラブルがあると、欧米人か韓国人か中国人が何やら怒鳴って主張しているのを見かける。そういう意味では、日本では浮いてしまいがちな関西人だけど、日本を出るともっともグローバルスタンダードに近い感覚を持っているのかもしれないなと、モトキを横目にふと思った。

 

けど演技とはいえ、モトキが怒鳴っているのをわたしは初めてみた。

 

もともと草食系の温和なモトキは、演技だとしても今日のやり取りはかなりストレスがかかったと思う。

ホテルの値段交渉のようにわたしが英語で交渉するのかと思っていたけど、今日はずっと矢面に立ってくれていた。

 

夫婦で旅行をすると、日本では見られないパートナーの一面がみえる。

この旅でわたしから見えるモトキの一面は、今のところプラスの一面しかない。

モトキから見えているわたしの一面もプラスの一面であることを、

バスに揺られるモトキの寝顔をみながらひそかに願った。

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