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2009.10.31

南米ってこわいとこ?

そわそわ。
そわそわ。

ガラパゴス諸島に来て毎朝楽しみにしていた、とろけるような甘いマンゴージュースの味が「そわそわ」のせいで今朝はコンビニで買ってきたマンゴージュースのような味がした。

なぜ朝からこんなに「そわそわ」するのか。

それは今日、初めて、南米に上陸するという緊張感のせいである。

 ― 「南米」 ― 

旅行好きのわたしは、ずっと南米に憧れてきた。

インカ文明のマチュピチュ遺跡やナスカの地上絵、パタゴニアの大自然など、ここには書ききれないほどの魅力を有する南米。日本から最も遠く「地球の裏側にある」と表現される南米大陸には、最も異国情緒あふれる未知の大陸といったキラキラしたイメージがあった。あまりに遠いので一生いくことはないかもしれないなと思っていたし、南米へいくところを想像するだけで、冒険物語がはじまるようなドキドキ感をいつも感じていた。

でもその魅力の一方で、治安の悪さもよく耳にする南米。

バスジャック、強盗、スリ、誘拐など、南米では観光客の被害も決して少なくないといわれている。

未知の大陸に対する強い憧れと、少しの不安が、なんともいえないバランスで、わたしの心の中に不思議な「そわそわ」をつくりだしていた。

この「そわそわ」がもうすぐ的中することになるとは、このときはまったく思いもしなかった。

 

今いるここガラパゴス諸島は、南米はエクアドルにありながらも、非常に治安は良いと、どのガイドブックにも書かれていた。

自然環境を保護するため、ガラパゴス諸島への国民の移住が規制されているらしく、また観光客など外国人の入島も厳しく監視されているので、ガラパゴス諸島は南米にありながらもある意味、テーマパークのような隔離された特殊なエリアとなっている。

そのためガラパゴス諸島は世界有数の観光地でありながら、観光客を狙った犯罪はとても少ないとのこと。たしかに、ガラパゴス諸島で過ごした数日間は、今回の旅行の中でもずば抜けて安全な空気を感じた。

今日、この穏やかな雰囲気のガラパゴス諸島に別れを告げ、今からわたしたちはエクアドルの首都、キトへ向かう。

ここガラパゴス諸島に入島するため、わたしたちは南米はエクアドルにあるグアヤキルという街を経由したが、夜中に着いて翌日の早朝にガラパゴス諸島に向かったので、本格的な南米の雰囲気というものをわたしたちはまだ味わっていないのだった。

じつをいうと本当はグアヤキルの街も1日観光する予定を組んでいたんだけど、マイアミの悪夢のレンタカー事件(※ブログ「世界一周旅行中止の危機!」)のせいで南米到着が1日遅れたため、今日が実質はじめての南米初上陸となった。

グアヤキル到着前よりもさらに気を引き締めるわたしたちだった。

ただ救いなのは、キトに石倉さんという日本人の方がわたしたちを待っていてくれるということだった。

石倉さんとは、エクアドルに滞在していた後輩のなえちゃんから紹介された、旅行代理店の人だ。

エクアドルの信頼できる旅行代理店を事前に紹介してもらっていたのだ。日本人向けの旅行代理店ではなく、エクアドル国内の人が利用するエージェントなので、経済的。また偶然にもそこで日本人の方が働いているので、JAICAの人たちはよくこの代理店(Nauta Routes:詳細はこちら)を利用するのだとか。石倉さんと何度かメールのやり取りをして、ガラパゴス諸島のガイドツアーと、飛行機のチケットをおさえてもらい、キトでの宿泊先の予約もお願いしていた。しかも、わたしたちが南米に滞在するのがはじめてということで、空港までむかえにきてくれるとのことだった。なんと心強い!

ガラパゴス諸島からわたしたちは予定通りの飛行機に乗った。

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窓から見えるガラパゴス諸島の風景に名残おしさを感じつつ、ガイドブックを読んでキトの観光スポットをわくわくしながら予習していると、しばらくして機長からこんなアナウンスがあった。

「今日はみなさんラッキーです。グアヤキルを経由してキトに向かうこの飛行機は、今日特別にグアヤキルを経由する必要がなくなったので、予定より1時間半早くキトの空港に到着することとなりました。」

機内は「やったね!」といった乗客たちのやり取りでにわかに盛り上がっていた。
わたしたち二人を除いては。

そんなに早く空港に到着して石倉さんと会えるのだろうか。
わたちたちの不安はただそれだけだった。

石倉さんが電光掲示板を見て、わたしたちが到着するゲートで待ってくれていることになっていたので、特にわたしたちは詳しい待ち合わせ場所は決めていなかった。1時間半も早く飛行機が到着したら、待ち合わせ時間の頃にはわたしたちの便名は電光掲示板には表示されないかもしれない。

 

そして機長の予定どおり、キトの空港に1時間半早く到着した。

到着時刻がかなり早くなったことを石倉さんに伝えようと二人で話し合い、バゲージクレームで荷物を受け取ってからから石倉さんに電話してみた。

すると

「ちょうどよかった。仕事がおしていて空港への迎えがかなり遅くなりそうだったから、あなたたちと連絡取れないし、どうしようかと思ってたの。」と石倉さん。

わたしたちは

「全然大丈夫です。何時になっても空港で待ってますんで。」

と伝えると

「でも何時になるかわからないし、ホテルのロビーで待ち合わせしましょう。」

と意外な返事が返ってきた。

ホテルで待ち合わせ。

ということは、当たり前だけど、ホテルまで自力で行くということだ。

予期してなかった展開に焦りながらも、ノートPCからスカイプで電話していたので、電波が不安定でいつ切れるかわからないこの電話では「わかりました。ではホテルで。」と早口で伝えるのが精いっぱいだった。

電話を切ってから二人ともしばらく沈黙。

良い歳をして恥ずかしいけど、まるで「はじめてのおつかい」をさせられる子どものような気持ちになった。
こんな感覚は久しぶりだ。
朝から感じていた「そわそわ」が、「不安」となって胸いっぱいに広がっていった。

空港からタクシーをひろってホテルに行くだけ。
たったそれだけ。

日本だったらたったそれだけで不安を感じたことなど一度もなかった。
まるで小さな子どもに戻った気がした。

「タクシー強盗」「バスジャック」「誘拐」といった言葉が頭から離れない。
荷物もあるし、スリの多いバスを避けるとなると、タクシーしか方法はなかった。

「まぁ、大丈夫やろ。タクシーの運ちゃん全員が強盗なわけないしな。」

楽天的なモトキはわたしほどは気にならないようで、そう言ってさっさと出口の方に歩きだした。

出口の向う側には何台ものタクシーが止まっている。

(あぁ~強盗だったらどうしよう。)とウジウジ考えながら出口をでた。でも、郷に入れば郷に従え。強盗でもなんでも、命まで取られることは少ないだろうと腹をくくり、タクシーの運ちゃんの顔を一人一人観察。空港を出てからあまりキョロキョロすると「旅慣れてない感」から強盗のエジキになりかねないので、わたしたちは出来る限り平静を装い、人相の良さそうなドライバーを見つけてタクシーに乗り込んだ。あたりまえだけど、英語は通じない。ホテルの名前と住所を書いた紙を見せて「Por favor.(おねがいします)」とスペイン語で言うと、無言でうなずいて運ちゃんはタクシーを発車させた。

グアヤキルで乗ったタクシーのしゃべりの運ちゃんとはちがい、不自然なぐらい何も話しかけてこない今日の運ちゃん。運ちゃんの褐色の顔で鋭く光る目をルームミラー越しに見ていると、運ちゃんもチラチラこちらを見だした。「目があったら、そらした方が負けや。目そらしたら追いかけられるんやで。」と死んだおじいちゃんが言っていた(ただし犬の場合)のを思い出し、わたしは運ちゃんとの小さな戦いを静かに繰り広げていた。その横でモトキは「けっこうキレイな街やん。」「おっうまそうな店やなぁ。見てみ。」とわたしの腕をポンポンたたきながら窓の外を見ている。わたしもかなりのん気な方だが、自分よりのん気な人と一緒にいると、どうしても心配する係を引き受けてしまうようだった。

人通りのない狭い路地に入るたびに冷や汗がじんわりでてくる。

狭い路地を何度も曲がって、どんどんメイン通りから遠ざかる。

けっこう大きなホテルのはずなのに、こんなに入り組んだ場所にあるのかなぁと思っていると、さすがのモトキも「おいおい、ちゃんとホテルに向かってるんやろなぁ、おっちゃん。」と関西弁で運ちゃんに話しかけだした。「おっちゃん、このホテルやで。」と今度は運ちゃんの腕をポンポンしながら住所を見せて確認するモトキ。「Si, Si!」と「わかってるよ~。」と言いたげな運ちゃん。

たまに廃墟になっているビルもあり、街の雰囲気がさみしくなってきた。

わたしの不安がピークに達したそのとき、突然、タクシーが止まった。

窓から外を見ると、大きな建物があり、どうやらホテルに着いたようだった。

 

よかったぁぁぁぁぁ。

 

ほっとしたのと同時に、運ちゃんを疑いまくった自分をすごく恥ずかしく感じた。
自分ってちっちゃいなぁって、あらためて実感した。

「なんや、ただの無口なおっさんやったんか。おっちゃん、ありがとうな。Gracias!」とモトキは運ちゃんの腕をまたポンポンたたいていた。

この旅で、これからもタクシーを幾度となく利用するだろう。そのたびにビビりたおして運ちゃんを疑うのはもうやめようと思った。もっと直感を磨こうと思った。運ちゃんを見たときの直感で難を逃れられるようになれば、不安からむやみに人を疑うことはなくなるだろう。人と会ったときの一瞬の感覚。その自分の感覚にもっと敏感になろうと思った。感覚に違和感があるか、ないか。目の前の人を信じてついて行っていいかどうか。

キトの新市街はおしゃれなカフェがけっこうある。

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後日談だけど、この感覚をさらに磨こうと思うちょっとした事件に、わたしたちはこれから何度もでくわすこととなる。そのたびにいろんなことを学んで、さまざまな感動があった。そのときは必死だけど、あとで振り返ると笑い話となることばかりだ。だから、旅は、おもしろい。

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